ギラギラナイト



『ギラギラナイト』(*1)は、岸野さんが現在、4人の盟友(*2)と不定期に開催しているクラブイベントである。いや、クラブ解体の「現場」とでもいうか。ソノシートでしかないような古いCMソングやムードミュージック、果ては演歌か軍歌かといった選曲と、70年代邦画やTV番組の映像コラージュで、各自の世界観を見事なまでに体現。知らずに踊りに来た人には災難としかいいようがないが、毎回、よくある「モンドな音楽がかかるイベント」とは対極に位置する、唯一無二のエクスペリメンタルな空間を生み出している。

「男たちがアンパンを食べながら牛乳を飲むクラブ」というコピーにピンとき、以下の言葉にグッと来た人は全員集合!

(文責:Super! 編集部 / "Super!" Vol.11 岸野雄一特集号より転載)

●虫画面発、宇宙行き
「ギラギラナイトを始めたのは1995年かな。モンドブームが起こって、いくつもの亜流が出てきて。「ああ、亜流がたくさん出てきたね。じゃあ僕らもひとつ亜流をやるか」ってなって(笑)。70年代から80年代初期にかけて――まだTVがチャンネルでまわす時代だった時ね。今みたいに、リモコンで観たい局をすぐに飛べるわけじゃなくて、間に何チャンネルもガチャガチャやって経由しないとたどり着けない、あの世界をやろう!ってことになって。昔はTVって夜中に終わってたでしょ。あの独特の寂しさってないじゃないですか。で、"宇宙の果てってどうなってるんだろう"とか"宇宙の始まりは何だったんだろう"とか、虫の飛んでる画面を観ながら考えるあの気分を(笑)。やっぱりあの虫画面は宇宙と繋がってると思うんだけど、ああいう居ながらにして宇宙に放り出されたようなものをやろうと。」

「そんで、やっぱり"この作家のこんなの知ってるか"みたいなマニア合戦も出来るけど意味ないし、1枚10円とかの中でもいいものもあるから、そういうものも区別なくかけようと。で、ああいう構成に、もう有線と聞き違うようなものまで(笑)。だからジャンル的には、ギラギラの内容を説明するのって難しいんだけど、一度観れば、これぞ伝わりやすいものはないと思う。でもタイトルに『岸野ヨットスクール』 『ギラギラ・シゴキ塾、この時間監禁』とか、『ピカソとヘンリー・ムーア』とか付けちゃうから、最初はお客さん2人ってこともあったけど(笑)。いつも一番最後にかけるのが、『日曜洋画劇場』のエンディングテーマで、日曜が終わるあの感覚です。映像も僕と永田で、昔の映画やCMやお料理番組まで取り混ぜて編集してます。」

●今、あえてギラギラ?
「"ギラギラ"って言葉は、80年代初頭の角川映画にあったような、"ギラギラ感"から取ったんじゃないかな。やっぱり特に60年代後半から70年代とかって、無茶してものを作ってた時代でしょ。今はもう完全にシステマチックで、何か表現をみた時に"これはどういう企画書が下敷きにあって"とか、全部透けて見える。大型レコード店とかの試聴コーナーに行くとみんなそう。どういうプロダクションワークで、どれ位の予算使って、どういう層に向けて、宣伝費はこうで…って。」

「でも昔はそんなのお構いなしに、予算もキツキツだけど、でも"万人に届けよう"って意志があったじゃない。でも、今だと細分化されてるから、ヘンに諦めちゃってるっていうか。これはフレンチだから、アレンジは誰に発注とか、全部マーケティングなんだよね。例え作家はそう意図してなくても取り込まれてるし。でも、そんなの関係なく、とにかく全人類に届けてやる!っていう意志があるもの――昔の歌謡曲とか、やっぱりそうだったと思うのね。でも、中には結果的に、おまえコレかよって(笑)、"これを好きな奴は世界で50人ぐらいしかいないんじゃないか?"ってものに仕上がってるものも多くて。それを"ああ哀れだ!"って抱きしめてやりたくなるような部分も含めて。ギラギラした魂の供養イベントが、ギラギラナイトじゃないかと(笑)」


*1.「ギラギラナイトとは、レイト60'sからアーリー70'sにかけての、音楽が"ギラギラ"していた時代を、超レア〜超ユルまで織り交ぜた音と映像によって再現する試みである。部活の帰りに先輩の家に集まって、音を消したテレビのチャンネルをリモコンなど使わずにがちゃがちゃ回し、夜更かししながらレコードを聴く雰囲気を再現している、男達がアンパンを食い牛乳を飲みながら聴くクラブ、それがギラギラナイトである。また一曲ずつ交互につないで、レコードを戦わせるバトル形式のDJは、今でこそヨーロッパを中心に定着しているDJスタイルだが、実はこのギラギラナイトが発祥の地なのである。」((c)ギラギラナイト)

ギラギラナイトとは何か
1.ある日、スクエアプッシャー聴いてたら角川映画のサントラに聴こえた。
2.「復活の日」のサントラは一時期ブレイクビーツに使われまくったマイルスのテープ操作人テオ・マセロの作品だ。
3.70年代の退色したカラー映像が好きなのでアリスのドキュメンタリーを見ていたら、ハンドインハンドで15分かけてBPM200くらいの4つ打ちになりトランスのパーティーに行く人の気持ちが「なるほど、そういう事か」と、はじめて実感として分かった。
4.説明や消費、かろうじて挑発くらいで、誰も「仲裁」する者がいない、とユリイカに書いたのはもう三年前の話だ。反動だってポーズでしょ?(or タトゥーだって腕だけでしょ?) 男気もクラブの女子のクスクス笑いに堕した。
5.全ての盤が終わった時、針音のループのかなたから真のアンビエントが現出する(特にソノシートで)。
6.Jラップはまだまだ可能性のある分野だ(マジで)。もう飽きてしまったのか?

*2.永田一直(TRANSONIC/円盤) / 秘密博士(秘密研究所) / 田口史人(美音堂/円盤) / 吉田哲人(readymade/8bits)



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